運動を取り入れて認知症予防・認知機能維持をめざそう:広川慶裕先生インタビュー

2018年3月23日

ひろかわ脳とこころの健康クリニック 院長 広川慶裕先生インタビュー

健康志向の高まりから、運動に関心をもっている人は多いと思います。しかし、高齢になると運動を続けることが難しくなり、その結果フレイルのリスクが高まるとされています。運動は、認知症予防や認知機能維持の点からもその効果が大いに期待されるもの。MCI(軽度認知障害)の予防・治療に意欲的に取り組んでいるひろかわ脳とこころの健康クリニック院長の広川慶裕先生も、運動療法と食事療法を治療の2本の柱にしています。そんな広川先生に、「認知症と運動の関係」についてうかがいました。

話し手
広川慶裕先生
ひろかわクリニック院長
広川慶裕先生
この記事の目次
  1. 運動によって「脳の可塑性」を高めることで、脳は再構築される
  2. フレイルと認知症は同時に予防・改善できる
  3. 食事療法によって腸内を整えることも、脳にはとても大切なこと
  4. 広川先生のクリニック情報
  5. ●ひろかわクリニック(宇治駅前MCIクリニック)
  6. ●品川駅前脳とこころの相談室

運動によって「脳の可塑性」を高めることで、脳は再構築される

──運動の作用は認知症とどのようにかかわっているのでしょうか。

認知症予防・改善に及ぼす効果に対して、明確なエビデンス(根拠)が示されているのが「運動」なんです。有酸素運動を1日30分、1週間に3回のペースで継続したところ、半年〜1年で「脳の海馬の容積が増えた」「脳の血管が増えた」という報告も上がっています。

認知症の場合、脳は血流の悪い状態にあります。しかし、運動をするとたちまち脳の血流量は増えます。その結果、酸素や栄養が行き届き、脳の働きが活性化するのです。

一方、認知症によって脳の機能が低下すると、身体のすべてをうまくコントロールできなくなり、機能的にも不協和音が生じます。運動機能も然りで、今までできていた動きができなくなってきます。そして、これを改善するのも運動なのです。これまでに体験したことのない運動(動き)を外部からの指示によって行い、脳に負荷をかけることで、その再構築を促します。

──脳を新たに作り直すことができるのですか。

厳密にいうと、脳の神経細胞(ニューロン)同士をつなぐシナプスを再構築するということです。死んでしまった脳細胞を蘇らせることはできませんが、その細胞が担っていた機能を他の場所で補う、つまり代償することはできます。シナプスは、新しいことを学習することで、新たな回路を作ります。これが、認知症予防を考える際のキーワードである「脳の可塑性」です。この脳の働きをうまく引き出すようにすることで、認知症の予防・改善が図られるというわけです。

──運動によって脳の可塑性を引き出せるというわけですね。具体的には、どのような流れになるのでしょう。

シナプスの再構築を促すために、新たな動きを伴う運動をしたり、新しいことを学習するなどして脳に負荷をかけ、脳血流を増やします。すると、酸素や栄養が脳に十分にいき渡るようになり、エネルギーに変換されます。このエネルギーが脳を活性化させ、シナプスの再構築にも利用されます。このような循環のシステムを作っていくことが、認知症の予防・改善には必要なのです。

ちなみに、私のクリニックで行っている「認トレ」の中では、「手を叩きながら足踏みをする」などのデュアルタスク(二重課題)による「ながら運動」によって、運動刺激と知的刺激の両面から脳への負荷を高めています。

──エネルギーという言葉が出ましたが、血流が増えるとエネルギーも増えると考えていいのですか。

血液によって酸素や栄養がたくさん運ばれるようになると、変換されるエネルギーは増えます。これは、脳だけでなく全身にいえることです。ただし、細胞内にあるミトコンドリアの機能が低下している場合は、より多くの酸素や栄養がないと、エネルギーを十分に生み出すことができません。ミトコンドリアは細胞内にあり、エネルギーを生み出す発電所のような働きをする器官で、認知症の人はその機能低下を伴っていることが多いと考えられます。

──だからこそ、運動と栄養がより重要なのですね。

そのとおりです。ミトコンドリアの機能低下に対しても、運動療法と食事療法で改善を図ることができます。食事で摂取した栄養を含んだ血液を、運動によって身体の末端まで行き渡らせることで、細胞が酸素と栄養を十分に取り込めるようになります。その際、食事に機能性食品を加えることで、ミトコンドリアがエネルギーを作りやすい環境を整えることも大切です。具体的には、ビタミン類や必須脂肪酸などが挙げられます。

フレイルと認知症は同時に予防・改善できる

──最近「フレイル」という言葉をよく耳にします。認知症ともかかわりがありそうなのですが、どういうものなのか教えてください。

「フレイル」は、もともとは「虚弱」と訳されていたのですが、現在では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」(厚生労働省研究班)とされています。簡単にいうと、心身の機能が低下し生活に障害がある状態で、いわば「身体の認知症」のようなものです。

「サルコペニア(筋力の低下とそれに伴う機能低下)」とも密接に関連しており、高齢者の活動性を低下させ、生活にも障害を及ぼすものとして、何らかの対策が期待されています。

──フレイルは改善されるとのことですが、ポイントはありますか。

フレイルの改善には、エネルギーが必要になります。フレイルの人は、筋力や運動機能が低下しています。その原因として、栄養が十分でないことが多いので、いかに効率よくエネルギーを生み出せるようにするかということが重要になります。

そこで注目されるのがケトン体です。人間は年齢が高まるほど糖質(ブドウ糖)をエネルギーに変える力が弱くなり、糖質をうまく利用できなくなります。また、それを補うために筋肉を分解してケトン体を得ることになり、筋肉が減少してしまいます。ケトン体を取り入れることは、効率よくエネルギーを生み出すとともに、筋肉を増やすことにもなるのです。

──具体的にはどのようにすればよいでしょう。

ケトン体に素早く代謝されるMCTオイルなど中鎖脂肪酸を摂取し、同時に運動を行います。負荷の高い筋力トレーニングではなく、有酸素運動が適しています。筋肉痛が現れたときは、それが完全に解消してから運動を再開します。また、フレイルの人はそもそもタンパク質摂取が不足しがちなので、筋肉の合成に使われるタンパク質を補給することも必要です。これらはフレイル予防としても有効です。

──こういった方法は、認知症の予防・改善にもつながるものですよね。

はい。フレイルの予防・改善のために運動療法と食事療法に取り組むことは、図らずも認知症の予防・改善にもつながっているのです。

※ MCT(中鎖脂肪酸)を詳しく知りたい方は、⇒ MCTサロン

食事療法によって腸内を整えることも、脳にはとても大切なこと

──認知症やフレイルの予防・改善には、運動が必要であることがわかりました。同時に、食事(栄養)にも目を向けることが大切なのですね。

認知症やフレイルの予防・改善は、運動療法と食事療法の両輪があってこそ成り立ちます。運動療法は、運動を生活習慣にして行くことが必要ですが、食事療法は、毎日の食事の中で行えるので、より実践しやすいのではないかと思います。私が食事療法の柱としているのは、①【高タンパク質】プロテインスコアの高いものを積極的に取り入れる、②【低糖質】糖質を制限する(150g/日程度)、③【高必須脂肪酸】中鎖脂肪酸、オメガ3を取り入れる、④【高ビタミン】サプリメントで、ビタミンA・C・E、B群、D群を取り入れる、⑤【高食物繊維】オリゴ糖、ヨーグルト、発酵食品を取り入れる、という5つです。臨床医として実践を重ね、効果を実感できているものです。

──認知症の予防・改善に食物繊維がかかわるのは意外に思えるのですが。

食物繊維は腸内細菌(腸内フローラ)の餌となります。餌を得て腸内細菌が増え、腸の中の環境が整えられることになります。では、なぜ腸なのか。それは、脳と腸はお互いに情報を伝達し合い、作用を及ぼし合っているからです。これを「脳腸相関」といいます。強いストレスや不安で胃腸の調子が悪くなったということはよく聞きますよね。これも脳腸相関によるもの。逆に、腸で生じた異常が脳の情報処理機能に影響を与えたという報告もあります。

ですから、腸内環境を整えるということも、脳にはとても大事なことなのです。

──運動と食事によって、認知症だけでなく、フレイルなど加齢に伴う状態が予防・改善できることをあらためて確認できました。ありがとうございます。

このような運動療法と食事療法は、なるべく早く取り組むことが大切になります。加齢が進むなか、より年齢が低いうち──つまり機能が高いうちに維持するためです。これは、MCIや認知症の場合も同様です。私のこれまでの経験から、症状が改善した例が少なからずあります。仮に治療を受けていたとしても、まずは希望をもって取り組んでいただけたらと思います。

広川先生のクリニック情報

クリニック2 クリニック3 クリニック1

●ひろかわクリニック(宇治駅前MCIクリニック)

京都府宇治市宇治妙薬24-1 ミツダビル4F
TEL:0774-22-3341(月-金:9:30-17:00)
http://www.j-mci.com/

●品川駅前脳とこころの相談室

東京都港区高輪3-25-27 アベニュー高輪603
(「品川駅前郵便局」が入っているビルの6階)
TEL:03-6459-3201(月-金:9:30-17:00)
※相談時間以外は転送され、担当者が対応いたします。
http://www.j-mci.com/tokyo/shinagawa.html

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